アンリ・デュナンのふるさとスイスでの鉄道物語
氷河特急の廃線区間をボランティアで復旧~肩の力を抜いて歩んだ幾歳
アンリー・デュナンをはぐくみ、そして、国際赤十字委員会本部等があるジュネーブにレマン湖の水面がゆったりと輝いています。ローヌ氷河を源流とするローヌ川がその湖に流入しています。スイスを代表する人気路線である「氷河特急」でローヌ氷河を身近に観光することが出来たのですが、その路線の一部がトンネル化し、ローヌ氷河の絶景を身近に体感出来る区間が廃線になりました。その旧線路をボランティアが20年の歳月をかけてついに復活させたのです。
◆「氷河特急」のネットワーク
氷河特急[グレッシャー・エクスプレス(Glacier Express)]は二つの私鉄が自社部分の自慢の技術を生かしながら、相互乗り入れの形で共同運行をしています。その二つの私鉄とは、ツエルマットからディゼンティス間を担当するMGM鉄道(マッターホルン・ゴッタルド鉄道)、ディセンティスからクール/ダヴォス/サン・モリッツまでを受け持つRhB鉄道(レーティッシュ鉄道)です。
ヴァレー州のツエルマットとグラウビュンデン州エンガディン地方のサン・モリッツという、アルプスを代表するマウンテン・リゾートを結ぶ、伝統のスイス横断ルートです。最高地点2033mのオーバーアルプ峠を越え、7つの谷、291の橋、91のトンネルを抜けて走る約8時間の旅は、雄大な名峰、美しい森やのどかな牧草地、牧歌的な山里、山間の急流や渓谷などの絶景が続きます。
両社とも自社部分だけの各駅停車を運行していますので、氷河特急に乗らなくても、乗り換えながら行けば、全路線を走破することが出来ます。またツエルマットからサン・モリッツまでの270KMを乗り換えなしで、氷河特急に接続する大きな展望窓のパノラマ車両(プレミアム
Premium)がワンランク上の快適な旅を提供してくれます。
現在のMGM鉄道の本線は1982年に開通した、延長:15.4Kmの「新フルカトンネル(Furakabasistunne)」経由で年間を通して運行をしております。それ以前の氷河特急には、10月から翌年6月までの実に9ヶ月間は運行不能になる泣き所があったのです。路線の中で最も標高の高いフルカ峠付近は、冬には10mを超す豪雪のため橋が重みで落ちてしまい、トンネルも吹き込む雪で塞がってしまのです。そこで氷河特急は冬は橋をたたみ、トンネルには蓋をして運休し、翌年の春を待つというくり返しが50年あまり続いたのです。
冬の運行停止という、ほぼ唯一のマイナス要因を取り除いて年間走行を実現した新フルカトンネルの開通は国益にそった快挙だったのです。ヨーロッパの東と西を結ぶこの幹線はスイスの国際的な発言力を増し、国内的には東のグリゾン州と西のヴァレー州と直結することで、ふだん別行動を取りがちな、スイス・ドイツ語圏とフランス圏がまとまる象徴でもあったのです。
◆ボランティアで旧線路の復活
しかし、20分でオーベルワルトからレアプルまでのフルカ峠部分をトンネルで通過してしまう「新フルカトンネル」の開通で、氷河特急は大きなものを失ったのです。それは「氷河特急」の名前のいわれともなった、ローヌ氷河の絶景です。記録によると、この氷河特急フルカ山岳部分の旧線路は、翌年のトンネルの開通を前に1981年10月11日に最後の峠越を終えました。1926年に開通した全線の内、廃線になったのはオーベルワルト~グレッチ~レアルプ間約18Kmの線路です。軌道巾は100Cm。70%にアプト式の歯条レイルを使っています。
現在、復活して走行しているレアルプ~グレッチ間だけでも、折りたたみ式のシュテフェンバッハ橋など計12の橋と、全長1874mのフルカ山岳トンネルを含む5つトンネルがあります。

この廃線の正式の所有者であるFO鉄道は、安全のこともあって、当初、鉄道を全面撤去するつもりでいました。そのうちに、中央スイス出身の鉄道マニアが二人やって来て、土地の視察をはじめ、同好の士を募り、家族まで巻き込んで保存活動を始めたのです。ボランティア達の目的は、この旧路線を放棄しないこと、つまり線路を確保し、再運行を可能にすることでした。
まず作業はレアルプ側から始められました。新フルカトンネルの東の出口のレアルプとその駅の出口の中間地点に、作業所を作り、寝泊まりもできるようにして、ボランティアが交替で仕事にかかったのです。
氷河特急の全路線は、すでに1942年に電化されていましたが、費用と保全のことを考え、蒸気機関車で運行することに決めました。放置された線路の改修、蒸気機関車と客車の買い戻し、そしてその修復という三つの大仕事を、ボランティアはひとつひとつ解決をしていきました。
活動の当初は、なんの保証もなく、いつ復旧出来るかの見込みも立たない手探りの状態でした。しかし、1984年に活動を更に発展させるために「フルカ山岳区間保存協会(VFB)」が発足し、この協会とは別に鉄道を復元して運営するための組織として、1985年に、フルカ山岳蒸気鉄道(株)[独
DFB AG:Dampfbaha Fukuka-Bergstrecke]がいわばボランティアが一株株主となり設立されました。2006年には企業・個人併せて12,364株主に達しようとしています。復活までのその間、約20年、ボランティアは肩をいからせず、好きなことに没頭出来る喜びを第一義に協力しあったのです。
1990年には、1913年建造でかってスイスで使われ、1947年にベェトナムに売却されていた2台のSLを買い戻すことに成功、新聞でも大きく報道されました。

1992月7月11日年には、レアルプ(標高 1,538m)からティーフェンバッハ(標高 1,845m)の3.66Kmを正式開通。1993年7月30日にはティーフェンバッハからフルカ(標高 2,160m)までの3.34Kmを走行可能にし、それぞれ客を乗せて走らせました。同時に車両部門ではヴェトナムから買い戻した2台のSLを1993年には使用可能にしました。
SLでもいろいろ方式があって、運転の方法も違います。そのためボランティアといえども、かなりの専門知識がないとつとまらない仕事もあります。トンネル建造などは、専門の業者に依頼をせざるを得なかった。そこまでやってもまだトンネルの向こうの、ローヌ氷河が目の前に開けるグレッチ側には出られなかった。
株式会社の設立の時から、登記のために、アルフレート・ギジン氏(この人がVFBを組織した)が社長に就任をしています、氏も本来はバーゼル近郊で印刷・新聞業を営み、夏の営業運転中も現地に常駐しているわけでない。そのほかの副社長兼秘書・会計・株主連絡係・会報編集・株主勧誘兼広報・ドイツ代表・監査などの各メンバーも、休日や夜間に自宅で業務をこなしています。実際の鉄道運営には、やはり専門知識と資格を持った人が必要になります。フルカ山岳蒸気鉄道(株)にはその唯一の社員として、スイス連邦鉄道省の関係者が就任しています。今でもその人がただ一人の正社員で、あとはすべてボランティアによるシフト制だそうです。
1998年に、難関のムートバッハ付近の自動車道路横断線路の建設に取りかかった。一般車道を横断するため、線路の高さは道路と同じでなくてはならない。レイル中央の歯条レールを残すことなどは問題外です。枕木を取り除きレイルを道の高さに埋め込み、その上を通過する時は車掌が降りて、前後で車を誘導するという条件付きでやっと完成したのです。
1999年9月には、フルカからムートバッハのトンネルをくぐり、ムートバッハ駅(標高 2,118m)経由、グレッチ駅(標高 1,759m)までの5.89Kmの試運転に成功したのです。
開業の年を迎えました。試運転ならいざ知らず、客を乗せるとなれば、当然、連邦政府の管理下に入り、いくつもの条件をパスしなければらないのです。最後まで鉄道省の検査が入り、1948年建設部分のレイルを4日間で全部取り替えさせられるなど、滑り込みセーフだったのです。
2000年7月14日、ついにフルカ・グレッチ間の開通が実現したのです。これによりまた鉄道からのローヌ氷河の絶景を体感することが出来る様になりました。1982年の最後の峠越えから18年ぶりの快挙です。またレアルプからグレッチまでの区間、12.89Kmが復活したことになります。旧線を復活したDFB鉄道は、旧氷河特急と同じく、10月末から翌年の6までは運休します。

氷河特急路線の概要図

フルカ山岳蒸気鉄道路線図 出典:同社のHP
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グレッチからオーベルワルト区間の開通予告 出典:同社のHP
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2000年のグレッチまでの開通が復活の折り返しになり後半の復旧活動の始まりです。
ボランティアの復旧への意欲は衰えるどころかますます盛んです。グレッチからオーベルワルト区間、4.95Kmに挑んだのでした。
そして20年あまりの長かったプロジェクトは完成の日を迎えようとしています。
当方が作成したGoogle Earth Kmz のファイル、もう一つのスイスめぐり (Kmz ファイル 8KB) Furka Cogwheel Steam Railway
Googl Earth の環境のない方は次のアドレスからアプリケーションをダウンロードして下さい。
http://earth.google.com/intl/ja/
当方がダウンロードした参考資料
フルカ山岳蒸気鉄道 パノラマ図 (PDF A3 ファイル 2,676KB) Furka panorama e
フルカ山岳蒸気鉄道 路線詳細図 (PDF ファイル 260BB) Wanderwege uri
スイス絶景ルートの旅 スイス政府観光局 (PDF ファイル 7,723KB) ScenicRoutes
参照した文献・資料
スイスとっておきの旅便り 鈴木光子著 JTB発行
スイス鉄道紀行 美しきアルプスの国を巡る 池田光雅 光人社発行
フルカ山岳蒸気鉄道 HP アドレス http://www.furka-bergstrecke.ch/eng/index.php
辻本氏のHPスイス鉄道の旅 フルカ山岳蒸気鉄道(DFB)
スイス絶景の旅 グレッシャー・エクスプレス(氷河特急) スイス政府観光局
世界の車窓より スイス「鉄」の旅・その9、フルカ山岳蒸気鉄道
グレッチからオーベルワルト区間が完成、ついに全線開通
これでレイプル~オーバーヴァルトまでの全区間が開通しました。
運行開始は平成22年8月13日からです。
感動的なグレッシャー・エクスプレス(氷河特急)の旧路線を走る蒸気機関車の旅はよみがえったのです。
H22/06/03

